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お薬のはなし② ~便秘薬について~

目次

はじめに

この記事を書くにあたり、ちょっとしたエピソードがあります。先日、入院患者さんの便処置をしている際、新卒ナースに「便秘薬って沢山ありますけど、どう違うんですか?」と聞かれました。私は「便を柔らかくするのとか、排便を促すのとか色々あるんやで。また調べてみるといいよ」って先輩風をふかしながら答えましたが、内心では焦りまくっていました。「たしかに、下剤って沢山種類があるけど、どのような違いがあるのだろう?」という疑問を感じたため、今回は便秘薬(下剤)について調べてみました。

~参考・引用~
・慢性便秘症診療ガイドライン(https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf
・慢性便秘症の診断と治療(https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2018/04/shoudokukannrenn_05.pdf
・病院薬剤師さっぺいチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=68E6ZqJZpjo
・看護roo!便秘タイプ別・上手な下剤の使い方|排便ケアを極める(3)(https://www.kango-roo.com/learning/7435/
・新レシカルボン坐剤添付文書(https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2359800J1035_1_10/

便秘症とは

便秘というと、数日間便が出ず腹部膨満感がある状態をイメージする人が多いと思います。そもそも便秘症とはどのような状態を指すのでしょうか?2017年に発刊された慢性便秘症診療ガイドラインによると、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。たとえ毎日排便があったとしても、量が少ない時や残便感がある時は便秘といえるでしょう。

慢性便秘症の病態分類

慢性便秘は、器質性便秘と機能性便秘の大きく2つに分けられます。さらに、症状により「排便回数減少型」と「排便困難型」、病態により「大腸通過正常型」と「大腸通過遅延型」と「便排出障害」のように細かく分類されており、それぞれの特徴に応じた便秘症治療が求められます(詳細については〝慢性便秘症の診断と治療〟をご参照ください)。  薬剤性の便秘症としては、抗コリン薬や向精神薬、パーキンソン病治療薬などによるものが知られています。また、鎮痛薬や鎮咳薬の一部に使用されている成分の副作用により便秘を生じる場合もあります。中でもオピオイド鎮痛薬(モルヒネやオキシコドンなど)使用に伴う便秘症は有名であり、内服中は便秘とうまく付き合っていく必要があります。(オピオイド誘発性便秘症に関しては別記事にて後述予定です)

便秘薬の種類

主な便秘薬や下剤の種類と効果・副作用をまとめると下記のようになります。

種類 薬品名 効果・特徴 副作用・留意点
経口下剤 膨張性下剤 ・カルボキシメチルセルロース
・ポリカルボフィルカルシウム
・寒天
便に多量の水分を含ませ、膨張させることで腸管を刺激する ・腹部膨満
浸透圧性下剤 塩類下剤 ・酸化マグネシウム 腸管内容物を軟らかくし、腸管を刺激する ・高Mg血症(腎機能低下例では上昇しやすい)
・一部の抗生剤など併用注意薬が多い
糖類下剤 ・ラクツロース(ラグノスNF経口ゼリー)
・D-ソルビトール
浸透圧作用により、下剤効果を発揮する ・便秘改善のエビデンスはあるが、慢性便秘での保険適応はない
その他 ・ポリエチレングリコール製剤(モビコール) 浸透圧によって腸管内の水分量を増加。この作用により便中の水分量が増加し、便の軟化や便容積の増大が引き起こされ、大腸の蠕動運動が亢進することで排便を促す ・消化器症状(下痢、腹痛、腹部膨満、悪心など)
・過敏症(発疹、紅斑など)
刺激性下剤 アントラキノン系 ・センナ
・センノシド
・アロエ
小腸より吸収され、血行性または直接、大腸粘膜を刺激する(服用後8~10時間で大腸の蠕動運動を亢進して便通をもたらす) ・腹痛や下痢を起こすことがある
・依存性や習慣性がある
ジフェニール系 ・ビサコジル
・ピコスルファートナトリウム
腸管浸透圧を亢進し、便へ水分を移行させる(習慣性がなく、幼小児や妊婦、高齢者でも頓用される) ・長期使用にり内服量が増えたり、効果が減弱したりすることがある
上皮機能変容薬 クロライドチャネルアクチベーター ・ルビプロストン(アミティーザ) 小腸粘膜上皮細胞のクロライドチャネルを活性化し、腸液分泌を促進(腎機能が低下した高齢者にも使用可能) ・悪心や嘔吐がやや多い
・効果がある人とない人でハッキリ分かれる
グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト ・リナクロチド(リンゼス)   腸液の分泌を促進して便に水分を加えるタイプの薬。 便秘型の過敏性腸症候群(IBS)にも適応がある ・下痢(食後に投与すると、食前投与時に比べて下痢や軟便の発現率が高い)
消化管運動賦活薬 5-HT4受容体刺激薬 ・モサプリドクエン酸塩水和物 腸管運動の亢進 ・肝障害を生じることがあるため、長期使用しない
漢方薬 ダイオウ ・大黄甘草湯
・麻子仁丸
・桂枝加芍薬大黄湯
・大建中湯
小腸より吸収され、血行性または直接、大腸粘膜を刺激する(※アントラキノン系下剤の一種) ・依存性や習慣性がある
胆汁酸トランスポーター阻害薬 ・エロビキシバット水和物(グーフィス) 胆汁酸の再吸収を阻害することで、大腸にいく胆汁酸を増やし、結腸運動を促進、水分分泌を促進する ・腹痛 ・下痢
坐剤 ・炭酸水素ナトリウム(新レシカルボン坐剤) 腸内で炭酸ガスを発生し、腸管運動を亢進させる ・刺激感、下部腹痛、不快感など
浣腸 ・グリセリン浣腸(GE) 直腸壁からの水分吸収に伴う刺激で腸蠕動を促進する。また、便を軟化・膨潤させて排便を促す ・直腸粘膜の損傷に要注意
・心疾患や高血圧症、脳血管障害がある場合、血圧上昇による脳出血や迷走神経反射のリスクがある

    (看護roo!便秘タイプ別・上手な下剤の使い方|排便ケアを極める(3) の表をもとに一部編集し作成)

便秘のタイプと薬剤の使い方

上記のように様々な便秘薬がありますが、どのように使い分けたらよいのでしょうか?そのポイントは「便がどこに溜まっているのか?」ということです。

①おなか(腸)の便秘
経口下剤が選択されます。一般的には、まずは効果が穏やかで習慣性がほとんどない膨張性下剤や芍薬入りの漢方薬を試すことが多いようです。アントラキノン系下剤には腹痛や下痢といった副作用があり、特にけいれん性便秘(大腸の蠕動運動が過剰になって生じる便秘)に対しては慎重に投与する必要があるといいます。

②出口(直腸や肛門)の便秘
第一選択は新レシカルボン坐薬とし、それでも排便が見られない場合はグリセリン浣腸の使用が検討されます。新レシカルボン坐剤の有効成分は、炭酸水素ナトリウムと無水リン酸二水素ナトリウムです(添付文書参照)。要するに、炭酸ガスを固めた発泡剤であり、下剤成分は含まれていないため、依存性や習慣性がほとんどなく、高齢者や妊婦にも使用可能な薬剤とされています。

③おなか+出口の便秘
経口下剤と新レシカルボン坐剤を併用します。経口下剤は腸内に滞留している便を直腸・肛門まで運ぶ役割があり、坐剤には出口まで送り届けられた便を排出する役割があります。

現場での経験談として、便秘傾向の患者さんに対して、「坐薬かGEかどっちがいいのだろう?」と迷うことが度々ありました。まずは便秘のタイプを確認し、それぞれの薬剤の特徴や留意点を理解した上で選択することにより、効果的な排便ケアに繋がると考えられます。

まとめ

普段は快便という人でも、ちょっとした生活リズムや環境の変化で便秘傾向になる人は少なくありません。私自身、大事な試験やマラソン大会前などプレッシャーがかかる場面でお腹の調子を崩してしまうことが過去に何度もありました。そんな時はなかなか本領を発揮できないものです。たかが便秘、されど便秘・・・「しっかり食べて、運動して、しっかり出す」ということは、活力ある生活を維持するために大切なことであると改めて感じました。また、今回の記事作成を通して、市販の便秘薬には刺激性下剤が多く、漫然と使用することによる弊害も起こり得ることを知りました。
最後になりましたが、薬剤はあくまでも補助的な物であり、食事内容の見直しやこまめな水分摂取、運動など日々の生活習慣を改善していくことが基本であることは忘れないようにしたいと思います。

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この記事を書いた人

総合病院の一般病棟で働く看護師です。
日々の自己学習や趣味の記録としてブログを活用しています。

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