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お薬のはなし①~抗血栓薬について~

日々病棟で勤務していると、医師から内服の処方変更指示を受けることが多々あります。「はい、わかりました」と返事をするものの、「なぜ変更になるのか?」「Aという薬とBという薬では、どのような違いがあるのか?」という疑問を抱くことがあります。また、患者さんから薬についての質問を受けた時にうまく説明できず、院内の薬剤師に頼りきっている状況をもどかしく感じていました。そのような背景があり「よし、勉強し直そう!」と思ったことが今回の記事執筆のきっかけです。お薬のはなしシリーズの第1弾は『抗凝固薬と抗血小板薬について』です。

~参考・引用~
・抗血栓治療ガイドライン(https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide07_07.pdf
・一般社団法人日本血液製剤協会HP(http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/hemophilia/hem_02.html
・クラシエ 血液と血管の総合サイト(https://www.kracie.co.jp/ph/k-suisinkai/ketsueki-kekkan/blood-vessels/
・病院薬剤師さっぺいチャンネル(https://www.youtube.com/@sappei_ph

目次

はじめに

抗血栓薬は大き分けて抗凝固薬と抗血小板薬の2種類に分類されます。その名の通りどちらも血液をサラサラにするお薬です。それぞれの薬剤の違いを説明する前に、まずは止血機構(血がとまる仕組み)についておさらいしたいと思います。「抗血栓治療ガイドライン」では以下のように記載されています。

止血機構とは、損傷を受けた血管からの出血を阻止するために発生する血管壁と血液成分(血小板,凝固因子,線溶蛋白質)の一連の分子の複雑な相互作用である。血管が損傷を受け血液が血管外に流出すると、局所の血管が収縮し、損傷部位からの出血を抑えるように作用する。同時に損傷部位に血小板の凝集が起こり、血小板血栓が生じて損傷部位を塞ぐ(一次止血)。一方、一連の血液凝固因子が活性化されトロンビンが生成される。トロンビンは血小板の凝集を増強するとともに強固なフィブリン網を形成し、血栓を補強する(二次止血)。

う・・・うーん?なんだか難しいですよね。医療従事者であれば学生時代に授業で習ったことがあると思いますが、初見でこれを理解するのは容易ではありません。一時止血と二次止血について、もう少し噛み砕いて説明してみましょう。

一次止血と二次止血

一次止血:血管が破れると血液中の血小板が傷口に集まり、出血を止めようとする。
二次止血:血小板凝集による一次止血だけでは、血を止めるには脆くて不安定。そこで、血液中のタンパク質(フィブリンを中心とする凝固因子)が働き、セメントのように血小板血栓の全体を覆い固めて補強することで止血する。

少し分かりやすくなりましたかね?
抗凝固薬と抗血小板薬は、血栓のできる原因によって使い分けをしています。血栓には白色血栓と赤色血栓の2種類があります。

赤色血栓と白色血栓

赤色血栓:血液の流れが遅い静脈で起こりやすい血栓(静脈性血栓とも呼ばれる)。血流が悪いと、赤血球や血液凝固因子を巻き込んだ赤色血栓ができる。原因としては、心不全や心房細動、不整脈などが挙げられる。赤血球から形成されておりサイズが大きい傾向がある。←心原性脳梗塞の原因

白色血栓:血液の流れが速い動脈で起こりやすい血栓(動脈性血栓とも呼ばれる)。動脈硬化が進むと、動脈で血の塊(白色血栓)ができやすくなる。動脈硬化の原因としては、喫煙・肥満などの生活習慣によるものや、脂質異常症・高血圧・糖尿病などの動脈硬化性疾患によるものがある。←アテローム性脳梗塞の原因
(動脈硬化の仕組みについては「クラシエ 血液と血管の総合サイト」を参照)

赤色血栓に対しては抗凝固薬が使用され、白色血栓に対しては抗血小板薬が使用されます。よく使用されている代表的なお薬を整理してみます。

代表的な抗血栓薬

【抗凝固薬】
ワーファリン(ワルファリン)、リクシアナ(エドキサバン)、イグザレルト(リバーロキサバン)、
エリキュース(アピキサバン)、プラザキサ(ダビガトラン)
※水色下線の薬剤はDOACと言われる薬剤

【抗血小板薬】
バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、
プレタール(シロスタゾール)、パナルジン(チクロピジン)
※抗血小板薬を二剤併用することをDAPT(Dual Anti Platelet Therapy)と言う。また、二剤から一剤になるとSAPT(Single Anti Platelet Therapy)と言う。

DOACに関しては、一般的に「脳梗塞の予防効果はワーファリンと同等かそれ以上」「出血リスクはワーファリンより少ない」とされています。ちなみに、ワーファリンは食べ物との相互作用に注意が必要な薬剤であり、有名なものとして納豆の摂取を控えるように説明されることが多いと思います(参考:ワーファリン添付文書)。詳細を説明すると難しくなりますが、ワーファリンはビタミンKの働きを必要とする血液凝固因子の生合成を抑制する薬剤であり、納豆に多く含まれるビタミンKによりが作用が減弱してしまう可能性があります。(なお、クロレラや青汁にも大量のビタミンKが含まれています。ワーファリン内服中はこれらの食品摂取を控えることが必要です。)

ワーファリンとDOAC

ワーファリンは遷延性作用のため、内服の効果が現れるまで1週間程度かかります。また、半減期は55~133時間とされており、投与中止後も1週間程度は出血傾向に注意が必要です。添付文書に記載されているように、ワーファリン内服中は定期的に血液凝固能検査を受ける必要があります。その指標となるのがPT-INRです。ワーファリン療法を行う場合は、70歳未満ではPT-INRを2.0~3.0、70歳以上ではPT-INRを1.6~2.6の範囲に管理することが目標とされています(脳卒中治療ガイドライン2015 p.55)。ワーファリンの効果を正しく得るためには、医師の指示通りに内服し、定期的に凝固能モニタリングしていくことが大切になります。
一方、DOACについては、薬効の立ち上がりが早いこと、ワーファリンに比べて半減期が短いこと(5~20時間)、基本的にはPT-INRを厳格にコントロールする必要がないことが特徴として挙げられます。

ワーファリンは半減期が長いため、飲み忘れによる服用時間のズレが生じた場合でも血中濃度(効果)への影響が少ないと考えられます。余談ではありますが、ワーファリンとDOACでは薬価にもかなりの違いがあるようです。それぞれの薬の特徴を理解するとともに、患者さんの生活習慣をふまえて内服治療を継続できるように支援していくことが重要であると考えられます。

まとめ

今回の執筆にあたり、抗凝固薬と抗血小板薬について調べる中で「へぇ~、そんな違いがあるのか~!」と勉強になることが沢山ありました。半減期や薬価など、普段意識していないことについても学ぶことができ、改めて自己学習の大切さを感じました。内服治療を継続し、薬剤の効果を正しく得るためには、患者さんがどのような日常生活を送っているのかを知ることも大切なことであると思いました。今後も薬剤についての基本知識を身につけられるように学習を継続していきたいと思います。

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この記事を書いた人

総合病院の一般病棟で働く看護師です。
日々の自己学習や趣味の記録としてブログを活用しています。

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