経口血糖降下薬シリーズ第5弾。今回は「チアゾリジン薬」についてのお話です。
主なチアゾリジン薬
機序 | 一般名 | 主な販売名 | 備考 |
インスリン分泌非促進系 | ピオグリタゾン | アクトス錠15/30 | インスリン分泌を促進する薬剤ではないため、単独投与による低血糖のリスクは低い。 |
作用
まず始めに、高血糖の原因をおさらいしておきましょう。インスリンの作用が不足して高血糖になってしまう原因は大きく分けて二つあります。一つは、膵臓から分泌されるインスリンの量が減ってしまうこと(インスリン分泌不全)、もう一つは、インスリンが作用する細胞の感受性が弱くなってしまうこと(インスリン抵抗性)です。今回紹介するチアゾリジン薬は、インスリン抵抗性を改善することで高血糖を改善します。
薬理の教科書的に説明すると、「脂肪細胞に存在するPPARγに作用して、肥大化した脂肪細胞を減少させ、小型脂肪細胞を増やす。その結果、インスリン抵抗性を引き起こす炎症性サイトカインであるTNFαの分泌を抑制し、インスリンの感受性を高め、抗動脈硬化にはたらくアディポネクチンの分泌を上昇させることで、インスリン抵抗性を改善する」という風になりますが、なんだか難しいですよね。もう少し噛み砕いて説明すると、「脂肪細胞が大きくなり過ぎてインスリンの効きを悪くしているので、小型の脂肪細胞に戻すことで正常化し、インスリンの効きを改善する」というイメージです。
適応
インスリン抵抗性を有する2型糖尿病に用いるとされています。具体的には、添付文書に次のような記載があります
【効能・効果】
2型糖尿病ただし、下記のいずれかの治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性が推定される場合に限る、
1.①食事療法、運動療法のみ
②食事療法、運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用
③食事療法、運動療法に加えてαーグルコシダーゼ阻害剤を使用
④食事療法、運動療法に加えてビグアナイド系製剤を使用
2.食事療法、運動療法に加えてインスリン製剤を使用
ピオグリタゾンの添付文書より引用
副作用
他の薬剤と同様に、肝機能障害や低血糖症状(他剤との併用時)に関する副作用があげられます。また、重大な副作用として心不全の増悪、発症が報告されています。添付文書には以下の記載があります。
(1)重大な副作用(頻度不明)
ピオグリタゾンの添付文書より引用
1)心不全が増悪あるいは発症することがあるので、投与中
は観察を十分に行い、浮腫、急激な体重増加、心不全症
状・徴候(息切れ、動悸、心胸比増大、胸水等)がみられ
た場合には投与を中止し、ループ利尿剤等を投与するな
ど適切な処置を行うこと。特に心不全発症のおそれのあ
る心疾患の患者に投与する際やインスリンと併用する際
には、心不全の徴候に注意すること。
また、浮腫の有無に関しても注意が必要です。特に女性やインスリン併用時、糖尿病性合併症を発症しているケースにおいて浮腫の発現が多くみられると言います。ピオグリタゾン製剤を30mg/日から45mg/日に増量した後に浮腫が発現した例も多いとのことであり、服用中は下肢や顔面等の浮腫に注意して観察していくことが必要です。
その他にも、女性において骨折の発現頻度上昇が認められていることや、糖尿病性黄斑浮腫による視力低下などの副作用があげられます(詳細は添付文書をご参照下さい)。
特徴・留意点
副作用の項でも述べましたが、単独投与による低血糖のリスクは低いものの、SU薬など他剤との併用時には低血糖が出現する可能性があるため注意が必要です。
さらに海外での疫学研究において、膀胱癌の発症リスクに統計学的な有意差は認められなかったものの、膀胱癌の発症リスク増加の可能性を示唆する疫学研究も報告されており、膀胱癌治療中の患者には投与を避けることとなっています。(参照資料:日本糖尿病学会誌第55巻第8号.p594~598.2012)
まとめ
今回紹介したチアゾリジン薬に関しては、様々な副作用や留意点について述べましたが、浮腫や体重増加を予防するためには塩分摂取を控えるなど食事療法を遵守することが大切です。内服治療が全てではなく、食事や運動療法を並行して実践することが基本であり、それぞれのライフスタイルに応じて日々の生活習慣を改善していけるように心がけることが大切であると感じました。次回は「DPP-4阻害薬」について紹介します。
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