「国民病」「現代病」とも言われる糖尿病。皆さんは糖尿病についてどのくらい知っていますか?検査や診断、治療などの詳細については他サイトに委ねるとして、ここでは主に糖尿病の概要ならびに現状と課題について述べていきます。(参考:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b7.html )
血糖値とインスリン
糖代謝異常を知る指標として、血糖値やHbA1cが用いられます。血糖値は食事や運動、ストレスなど様々な要因によって変動しますが、通常はインスリンやグルカゴン、インクレチンなど体内で分泌されるホルモンの働きによって調整されています。HbA1cは、赤血球中のヘモグロビン(Hb)にブドウ糖が結合したもので、高血糖が持続するとその割賄が増加します。赤血球の寿命が約120日であることから、HbA1cは過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映します。
私たちが食事を摂取すると、食物が消化管で分解・消化され、栄養素の一部はブドウ糖となって腸から吸収されます。すると、すみやかに膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンの働きにより、ブドウ糖は細胞(筋肉や脂肪細胞など)に取り込まれ、血糖値は正常に保たれます。取り込まれたブドウ糖は私たちが活動するためのエネルギー源になります。空腹時は、主に肝臓でグリコーゲンが分解されてブドウ糖が作られています(糖新生)。
糖尿病の症状と合併症
糖尿病になるとインスリンが十分に働かず、ブドウ糖を細胞に取り込めなくなります。血液中にブドウ糖があふれた状態(高血糖)が続くと、口渇や多飲・多尿、体重減少、易疲労感などの症状が見られるようになります。
高血糖状態が長期間続くと、糖尿病特有の細小血管症が出現し、神経障害・網膜症・腎症(神経障害の「し」、網膜症の「め」、腎症の「じ」をとって“しめじ”と呼ばれます)といった合併症が出てきます。また、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞、末梢動脈疾患などの大血管症の原因となります。(こちらは、壊疽や壊死の「え」、脳梗塞の「の」、虚血性心疾患の「き」をとって“えのき”と呼ばれます)
し:神経障害
・末梢神経障害・・・足のしびれや痛み、感覚障害(けがや火傷をしても気付かないことがある)
・自律神経障害・・・立ちくらみ、便秘や下痢、排尿障害、勃起障害
め:網膜症
・単純網膜症・・・自覚症状なし
・増殖前網膜症・・・自覚症状なし
・増殖網膜症・・・視力が極端に低下。黒い物がちらつく。物がぶれて見える。
じ:腎症
・多くの場合は無症状。進行すると最終的には透析が必要になる。
1型糖尿病と2型糖尿病
糖尿病と糖代謝異常の成因分類としては、1型、2型、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病があります。ここでは1型糖尿病と2型糖尿病の特徴についてまとめてみます。
糖尿病の分類 | 1型 | 2型 |
発症機構 | 主に自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊。HLAなどの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって起こる。他の自己免疫疾患(甲状腺疾患など)の合併が少なくない。 | インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性を来す複数の遺伝因子に過食(特に高脂肪食)、運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する。 |
家族歴 | 家庭内の糖尿病は2型の場合より少ない。 | 家庭内血縁者にしばしば糖尿病がある。 |
有病率・発症率 | 好発年齢は8~12歳で、思春期にピークがある。 日本人における小児1型糖尿病の有病率は1万人当たり1.5~2人、発症率は1年間に10万人当たり1.5~2人2.5人。 | 40歳以降に起こりやすい。 日本人の糖尿病有病率は約12.1%(20歳以上)で、糖尿病患者数は約1,000万人と推計されている(厚生労働省「平成28年 国民健康・栄養調査」)。 |
肥満度 | 肥満とは関係がない。 | 肥満または肥満の既往が多い。 |
診断 | 急性発症1型糖尿病の発症時には、血糖値が300mg/dlを超えることが多い。尿ケトン体も強陽性のことが多い。 インスリン依存状態の診断には内因性インスリン分泌の枯渇を証明し、自己免疫性であることの診断には膵島関連自己抗体の存在を証明する。 | 日本糖尿病学会の診断基準による。 2型糖尿病を早期に診断するには、75gOGTTが有用である。 |
治療 | 入院治療が原則であり、ただちにインスリン療法を開始する。 インスリンによる高血糖の是正、補液による脱水の是正、電解質異常の是正が必要である。 状態が安定したら、インスリン治療を含めた糖尿病の自己管理ができるように教育し、家庭での治療に移行させる。 特に成長期は正常な身体発育に重点を置き、原則として年齢に応じた栄養量を摂取させる。 | 食事療法と運動療法が基本であり、必要に応じて経口血糖降下薬、インスリン、GLP-1受容体作動薬を用いて血糖のコントロールを図る。 合併症の状況やその重症度を把握し、病状に応じた治療を進める。 体重の減量や生活習慣の改善、血糖の改善に伴い糖毒性が解除され、薬剤の減量あるいは中止が可能になることがある。 |
糖尿病の現状と課題
『令和元年度国民健康・栄養調査』では、20歳以上の糖尿病が強く疑われる者(HbA1c≧6.5%)のうち、現在治療を受けている者の割合は76.9%(男性78.5%、女性74.8%)です。その一方で、治療を受けていない者の割合は、男性21.5%、女性25.2%であり、特に50歳未満(40~49歳)に治療を受けていない者が多いことが伺えます(詳細はこちら)。糖尿病治療の未受診の原因として多いのは、「痛みなどの自覚症状や特別な症状がないため」「仕事あるいは家事が忙しいなど時間的制約のため」という理由が多くみられます。
実際に臨床現場でも、糖尿病の罹患歴が長く途中で受診が滞ってしまう人や、インスリン注射が面倒になり自己中断してしまう人など、様々な理由により治療中断してしまうケースに出会うことがあります。先述の通り、血糖コントロール不良は様々な合併症を招く要因となり得ますが、裏を返せば、血糖値を良好に保つことにより糖尿病合併症の発症あるいは悪化を予防することができます。糖尿病合併症を減らすためには、仕事や家事などで忙しい若年層の未治療・治療中断をいかに減らすかが大きな課題といえます。
「食生活は変えられない」「インスリン注射は嫌なので飲み薬でなんとかしてほしい」など、一見するとわがままのように捉えられがちですが、背景には様々な事情があることも少なくありません。そのため、まずは対象のバックグラウンドに目を向けて話を傾聴し、相手の立場に寄り添って治療継続可能な方法を見出していくことが必要であると考えられます。
まとめ
いかがでしたか?現在、糖尿病ケアに直接携わっていない方でも、基礎疾患に糖尿病がある患者さんと関わることは多いのではないでしょうか。近年、糖尿病治療は目覚ましく進歩しており、インスリンポンプや血糖測定のためのデバイスなど医療機器を扱う機会も増えています。インスリンや血糖降下薬に関しても様々な種類があり、それぞれの特徴をふまえた上で糖尿病ケアに繋げていく必要があると感じています。
糖尿病治療のおいては、疾患と上手く付き合っていくことが重要であり、対象のニーズや社会背景に応じて多職種が連携して支援していくことが大切です。看護の分野では、糖尿病看護認定看護師をはじめ、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)や地域糖尿病療養指導士(CDEL)など様々な専門職が活躍しています。私自身、昨年度(2021年)CDELを取得しましたが、数年前には扱うことがなかった治療薬も続々と登場しており、時代に合った糖尿病ケアを実践していくために知識をアップデートしていく必要性を感じています。今後はCDEJ取得に向けて自己学習を継続していきたいと思います。
(参考文献:日本糖尿病療養指導士認定機構 編・著 糖尿病療養指導ガイドブック2021)
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