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失語症について

「言いたいことが思うように伝えられない」、「頭ではイメージできているのに言葉が出てこない」・・・皆さんも一度はこのような経験をしたことがないでしょうか?今回は言語障害の一種である失語症について述べていきます。

目次

はじめに

私達は普段、当たり前のように本や雑誌を読んだり、インターネットで調べ物をしたり、日記やメモなどの文章を書いたりしています。「読む」、「書く」、「聞く」、「話す」という言語能力の4技能を駆使することにより、私達は他者とのコミュニケーションを円滑に行うことが可能となります。失語症とは、大脳の言語中枢が損傷を受けることによって【言葉を聞いて理解すること】 【文字を理解すること】 【文字を書くこと 】【復唱すること】 など言語機能が障害された状態を指します。

失語症の原因

言語中枢が傷害される原因の約9割が脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中であるといわれています。その他には、交通事故による頭部外傷や脳腫瘍が原因で失語症を生じることがあります。失語症と混同しやすいものに「構音障害」がありますが、失語症と構音障害は似て非なるものです。どちらも脳血管障害や脳外傷が原因で生じるという点では共通しています。失語症が言語中枢の障害によって生じるのに対し、構音障害は脳の運動中枢に障害が起こることで生じるものであり、「喉や口で言語音を作る筋肉の麻痺・機能低下」を起こしている状態です。

失語症の種類

「右脳」・「左脳」という言葉があるように、大脳は右半球と左半球で機能が大きく異なります。一般的に言語中枢がある方を優位半球、ない方を劣位半球と呼びます。言語中枢は右利きで95%以上、左利きで70%以上が左大脳半球にあると言われています。つまり、大半の人は左大脳半球に言語中枢があると考えられます。失語症は、損傷を受けた脳の部位や症状によって主に以下の3つのタイプに分類されます。

  • 運動性失語(ブローカー失語)
  • 感覚性失語(ウェルニッケ失語)
  • 全失語(運動性失語+感覚性失語)

では、それぞれについてもう少し詳しくみてみましょう。

  種類                 特徴や症状
運動性失語思考を言語に変換する「運動性言語野(ブローカー野)」が障害されることによって生じる。
言語理解はできるが、話す時にスムーズに言葉の表出ができない。
感覚性失語言語を思考に変換する「感覚性言語野(ウェルニッケ野)」が障害されることによって生じる。
相手の言葉は音として聞こえるが、意味が全く理解できない。話し方は滑らかで、リズムや
イントネーションなどにも問題のないケースがほとんどだが、言い間違いが多かったり、
言葉が支離滅裂になったりして、自分の言いたいことが思うように伝えられない。
全失語運動性失語と感覚性失語を合わせた状態。

失語症の検査

①標準失語症検査(SLTA:Standard Language Test of Aphasia)
5つの大項目(聴く、話す、読む、書く、計算)から構成されている。失語症の有無や重症度、失語症のタイプを鑑別することができる。

②WAB失語症検査(ウェスタン総合標準失語症検査)
自発語、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの下位検査から構成される。失語の分類や失語症の重症度を表す失語指数を算定することができる。失行や半側空間無視の有無、非言語性知能検査などを含み、失語症以外の神経心理学的側面についての評価もできるとされている。内容的には、BDAE(The Boston Diagnosis Aphasia Examination)を修正・短縮したものであり、臨床上での有用性を鑑みて作製された経緯がある。(参考文献:WAB失語症検査)

③トークンテスト
「トークン」とは引き札のことであり、2種類の形および2種類の大きさ、5種類の色の組み合わせができる合計20個のトークンを用いて行われる。例えば、「大きな赤い四角と、小さな白い丸に触りなさい」という指示に対して、指示通りの動作ができるかを検査する。

失語症者とのコミュニケーション

日頃、当たり前のように行っている「読む」・「書く」・「聞く」・「話す」という行為ができなくなることへの不安やストレスは計り知れないものがあるでしょう。失語症のリハビリは専門職である言語聴覚士(ST)が実施しますが、日常生活での関わりがリハビリに繋がることも少なくありません。ここでは、失語症者とのコミュニケーション上の留意点をまとめてみます。

①ゆっくりと時間をかけて会話する・・・短く分かりやすい言葉で話しかける。一度で伝わらない場合は、写真やイラスト、ジェスチャーを用いるなど伝え方を工夫する(構音障害に有効とされる50音表は、失語症には向かないため注意が必要)。失語症の人は、会話の最中に突然話題が変わると対応できずに混乱してしまうことがある。話題を変える場合は相手にそのことをしっかりと伝える。

②過剰に先回りしない・・・相手が話そうとしている時はゆったりとした気持ちで待ち、次の言葉を先回りして話しすぎないこと。言葉がスムーズに出てこなくて本人が困っているようであれば、「はい」・「いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)や選択肢のある質問に置き換える。うまく話せない様子が見られる時は、目線・表情・動作などから相手の話そうとしている内容を酌み取ることも大切。

③子ども扱いしない・・・簡単な言葉を使おうとするあまり、子ども相手のような会話にならないように注意が必要。失語症では思考能力は低下しないため、あくまでも判断能力のある大人として対等に接することが大切。

失語症のリハビリにおいては、家族の理解や支援を得ることも重要な要素であると考えられます。少し古い文献ではありますが、〝失語症者の家族指導〟に関する文献を見つけたので紹介します。
考察で述べられているように、「家族が失語症者を受入れている程度が高いケースでは、失語症者は訓練場面で日常生活における不満を訴えていなかった」ということから、障害受容における家族の影響力の大きさが伺えます。病気や怪我で障害を抱えると患者本人ばかりに着目しがちですが、一緒に生活する家族がどのように受けとめているのかを知り、理解や支援を得られるようにサポートしていくことも医療者の重要な役割であると感じました。

まとめ

執筆時現在(2022年10月)、私は脳梗塞患者が多く入院する内科系の病棟に勤務しています。脳梗塞というと、片麻痺のように手足の運動機能障害をイメージしがちですが、障害を受けた脳の部位により様々な症状が生じることが知られています。これまでにも失語症患者と関わることはありましたが、具体的な検査方法やリハビリ等について学ぶ機会が少なかったため、今回のテーマとして取り上げることにしました。執筆の課程で様々な文献や記事を読み、対象の立場になってコミュニケーションをはかっていくことの大切さを改めて感じました。それと同時に、普段当たり前のように文字の読み書きや会話をしていることが、実はとても尊いことであるということにも気付かされました(この文章を書いている今もしみじみとそう感じています)。相手の立場に寄り添って関わることのできる医療者になれるように日々研鑽するとともに、ブログを執筆する情報発信者としても読者に思いが届くように文字や言葉を大切に扱っていきたいと思います。

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この記事を書いた人

総合病院の一般病棟で働く看護師です。
日々の自己学習や趣味の記録としてブログを活用しています。

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