食生活の欧米化や生活習慣などの影響により年々増加している糖尿病。良好な血糖コントロールを維持し、合併症の発症・進展を予防するためには、患者側と医療者側の密接な連携による療養指導が必要であるといわれています。ここでは、糖尿病の臨床における生活指導のエキスパートである“糖尿病療養指導士”について紹介します。
資格の概要:CDEJとCDEL
糖尿病療養指導士(CDE)には、日本糖尿病療養指導士(Certified Diabetes Educator Japan:CDEJ)と地域糖尿病療養指導士(Certified Diabetes Educator of Local:CDELまたはLCDE)という二つの認定制度があります。
CDEJは「一般社団法人 日本糖尿病療養指導士認定機構」が認定を行っています。糖尿病患者の療養指導に従事するコメディカルスタッフ(看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士)に与えられる資格であり、受験者は全員共通の研修・試験を受ける必要があります。2001年3月に第1回認定試験が行われ、2022年度で第23回を迎えます(2019年度の第20回認定試験はCOVID-19感染拡大のため中止)。少し前のデータではありますが、更新者を含めたCDEJの数は2020年7月時点で18,774人とされています。(医療は日々進歩しており、最新の知識・技術を身につける必要があるため、CDEJの認定制度は5年毎の更新制となっています。)
一方、CDELはその名の通り地域に密着した位置づけとなっており、各都道府県・地域によって独自に認定が行われます。CDELは、「糖尿病患者教育の正しい知識および技術の充実、向上を図り、地域医療に貢献することを目的として各地域の実情に即した体制のもとに認定され、地域の核となって活動」しています。その主な活動としては、「糖尿病教育に携わるコメディカルスタッフのレベルアップと質の均てん化を図り、地域の糖尿病患者のQOLの向上を最終目標とし、具体的には、市民糖尿病教室、健康フェア、ウォークラリー、広報誌や機関誌など地域に根をおろした患者・家族への活動と、糖尿病の予防および治療に関する調査・研究等にも取り組んでいる」とされています(出典:糖尿病療養指導ガイドブック2021)。CDEJと同じく、こちらも5年毎の更新制となっており、認定更新のために必要な研修単位を5年間で取得することが定められています。
ちなみに、CDEは日本だけでなく海外でも認定活動が行われています、米国、カナダ、豪州などでは1970年代初頭から糖尿病療養指導従事者の専門性と認定について検討された結果、1986年にCDE(Certified Diabetes Educator)制度が発足し、現在まで実績を積んでいます。
CDEJに関する研究
日本糖尿病療養指導士(CDEJ)に関しては様々な研究・考察が行われており、療養指導のエキスパートとしての期待の表れが窺えます。CDEJの資格を有する看護師にはどのような役割があり、実際の臨床現場ではどのような課題があるのでしょうか。以下にCDEJに関する複数の研究を紹介します。
研究①では、日本糖尿病療養指導士の認定資格を有する看護師(以下、CDEJNと略す)について次の6つの役割行動が示されています。
「糖尿病患者への療養指導」、「合併症・合併症予防への療養指導」、「糖尿病療養指導チームでの協働・連携」、「地域の糖尿病活動の支援」、「多職種の糖尿病療養指導の支援」、「糖尿病看護実践の省察」
実際に糖尿病患者への療養指導を行う立場として、患者個々の生活歴や病識の有無、受容段階をふまえた関わりが大切であると感じています。糖尿病は幅広い年代で発症する可能性があることから、療養指導を行う対象は学生から働き盛りの社会人、高齢者まで様々です。また、それぞれの生活習慣や社会背景が療養生活に与える影響も少なくありません。考察でも述べられているように、あらゆる年代への看護を実践する専門職として、ライフステージの変化にあわせた療養指導を行い、3本柱である食事・運動・薬物療法を継続できるように支援していくことがCDEJNの大きな役割であると考えられます。
CDEJNのもう一つの中心的な役割として、看護師を含む多職種に対しての糖尿病療養指導の支援や情報提供を行う役割が示唆されています。研究②で解説されているように、CDEJ資格を持たない看護師は糖尿病療養指導の場面において、「具体的な療養指導の仕方が分からない」「患者から質問された時に答えられるか不安」など様々な気持ちを抱いていることが窺えます。このような背景をふまえると、患者への指導だけに留まらず、糖尿病療養指導に携わる看護師・多職種の指導力底上げについてもCDEJNが担う役割の一つといえるでしょう。
このように様々な役割を期待されているCDEJですが、受験者および新規資格取得者数(合格者数)は年々減少しているといわれています。研究③は、糖尿病療養指導に関わる看護師の CDEJ の認定資格取得の阻害要因と促進要因を明らかにすることを目的とした介入です。阻害要因としては、「取得後の懸念」「外的環境要因」「内的要因」に大きく分類されており、取得後の業務増加や更新のための負担、学習時間の確保やキャリアアップと認識できないこと等、複数の要因が絡み合って資格取得への意欲低下に繋がっていることが窺えます。一方で、促進要因としては、「患者に対するメリット」「自分へのメリットを感ずる」が挙げられており、学習を通して自分自身の知識が深まり、他スタッフや患者に還元できる内容も増えると感じられることがポイントであると考えられます。
私が勤務している職場には複数のCDEJNが働いており、看護師以外にもCDEJを有する多職種(薬剤師、理学療法士)が在籍していることから、療養指導を学ぶ上での一定の学習環境は整っていると思われます。その一方で、日々の多重業務や交代勤務等により、CDEJが本来の役割を十分に果たすことが難しいという現状もあります。研究③の考察では、「糖尿病について基本的な知識と実践能力を有するCDEJ の認定資格の既資格取得者が,ロールモデルとして自らの糖尿病看護の介入結果の評価や糖尿病看護における看護師の役割を意図的かつ具体的に示すことで,CDEJ の認定資格のない看護師のモデリング学習が促進されると考える」と結ばれています。糖尿病看護の質の維持・向上のためには、現場の課題を整理するとともに、CDEJ の認定資格を有している看護師や資格取得を目指している看護師のキャリア形成への支援体制を構築すること必要であると考えられます。
まとめ
今回の執筆にあたり糖尿病療養指導士の活動や役割について調べる中で、知っているつもりで実は知らなかったことなど新たな発見がありました。上記で紹介した研究以外にも様々な調査研究が行われていることを知り、それだけ期待や注目を集めている存在であるということを改めて感じました。それと同時に、全国で活躍する糖尿病療養指導士の存在に刺激を受けることができました。私自身、現在(2022年8月時点)CDEJ認定試験に向けて学習中ですが、日々の業務に追われて学習意欲が低下することも正直あります。しかし、学習過程で得るものも多く、自分自身の学びが対象患者の療養生活のサポートに繋がる部分も大きいと考えられます。今後も折りにふれて様々な看護研究を読み、自己学習への動機付けや視野を広げることに役立てていきたいと思います。
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