これまでの記事で、経口血糖降下薬シリーズとして①SU薬、②グリニド薬、③ビグアナイド薬、④αーグルコシダーゼ阻害薬、⑤チアゾリジン薬、⑥DPP-4阻害薬、⑦SGLT2阻害薬、⑧イメグリミンについてご紹介してきました。今回は「経口GLP-1受容体作動薬(一般名:セマグルチド/販売名:リベルサス錠)」についてのお話です。「」
はじめに
GLP-1受容体作動薬には、リラグルチド(ビクトーザ皮下注)やリキシセナチド(リキスミア皮下注)、エキセナチド(バイエッタ皮下注)、持続性エキセナチド(ビデュリオン皮下注)、デュラグルチド(トルリシティ皮下注)、セマグルチド(オゼンピック皮下注)があります。〝○○皮下注〟という名の通り、いずれも注射製剤です。今回紹介するリベルサス錠は、オゼンピック皮下注と同成分であるセマグルチドの経口剤であり、世界初にして唯一※の経口GLP-1受容体作動薬です(※2023年7月現在)。リベルサス錠はこれまでに米国、カナダ、デンマーク、スイス、オランダ、英国、スウェーデンで販売されています。日本では2019年7月に承認申請し、2020年6月に「2型糖尿病」を効能又は効果として製造販売承認を取得、2021年2月に販売開始となりました。
作用
GLP-1受容体作動薬は、下部消化管から分泌されるGLP-1の受容体を活性化する薬剤です。というと、「じゃあ、GLP-1って何?」という質問が飛んできそうですね。GLP-1は、食事を摂取した時に十二指腸や小腸から分泌される消化管ホルモン(インクレチン)の一つであり、血糖値が上昇すると膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進する働きがあります。また、GLP-1には高血糖時のグルカゴン分泌を抑える作用もあります。このように、GLP-1は体内において血糖値を調節する上で重要な役割を果たしています。
リベルサス錠は、生体内で分泌されるホルモンであるGLP-1のアナログ製剤※です(※アナログ製剤・・・遺伝子組み換え技術などにより、生体内で分泌されるホルモンと同様の作用を持ちながら、薬物動態を改良した薬剤のこと)。
つまり、GLP-1と同じような作用によって体内のGLP-1受容体に働きかけ、血糖値が高い時に膵臓からのインスリン分泌を促進する薬剤です。
ここまでの話をまとめると以下のようになります。
・GLP-1受容体作動薬には様々な種類があるが、そのほとんどが注射製剤である。
・リベルサス錠は、世界初にして唯一の経口GLP-1受容体作動薬。
・リベルサス錠の同一成分であるセマグルチドの注射製剤として「オゼンピック皮下注」がある。
・GLP-1とはインクレチン(消化管ホルモン)の一つ。
・GLP-1受容体作動薬は、血糖値が高い時(グルコース濃度依存的)にインスリン分泌を促進する。
適応
食事および運動療法で効果不十分な2型糖尿病に用いるとされています(効能・効果、用法・用量についての詳細はリベルサス錠の添付文書をご参照下さい)。
副作用
・DPP-4阻害薬と同様、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進するため、単剤での低血糖リスクは少ないと考えられています。しかし、他の経口血糖降下薬やインスリン製剤との併用で低血糖を生じる可能性があるため注意が必要です。(DPP-4阻害薬に関しては、こちらの記事を参照)
・主な副作用としては、胃腸障害(悪心・嘔吐、下痢・便秘など)が挙げられます。
・頻度は多くないとされますが、急性膵炎が起こる可能性があります。膵炎と診断された場合は、再投与は禁止となっています。
特徴・留意点
・リベルサス錠は1日1回服用の経口剤であり、日本では3 mg、7 mg、14 mgの3つの用量が承認されています。(同成分の注射製剤であるオゼンピック皮下注は、週に0.25mg~1mgの範囲で投与されます。一方、リベルサス錠は吸収率が1%程度ときわめて低いため、1錠あたり3・7・14mgが含有されています。)
・開始用量は3mgで、4週間以上投与したのちに維持容量である7mgに増量します。なお、患者の状態に応じて適宜増減しますが、1日1回7 mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合には、1日1回14 mgに増量することができます。(胃腸障害を軽減されるため、いずれの増量も4週間以上の投与間隔を経てから行うことになっています。)
・内服方法には注意が必要であり、1日のうちの最初の食事又は飲水前の空腹状態で、コップ約半分の水(約120ml以下)で服用すること、とされています。さらに、服用時及び服用後少なくとも30分は飲食や他の薬剤の服用を避ける必要があります(食後に服用すると、多くの場合は期待した吸収が得られなくなると言われています)。
・リベルサス錠は吸湿性が高い薬剤であり、「服用直前にPTPシートから取り出すこと」「粉砕したり噛み砕いて服用してはならない」とされています。
・また、添付文書には以下の記載があります。
外国人2型糖尿病患者にセマグルチド1.0mgを週1回13週間(用量漸増期間を含む)皮下投与した結果、最終投与後1週間における空腹時血糖値はプラセボと比較して低く、血糖降下作用は1週間後においても持続していた
リベルサス錠の添付文書 18. 薬効薬理 18.2.1 血糖降下作用より一部
これはセマグルチドを皮下投与した時の結果ですが、同一成分であることをふまえると、リベルサス錠の服用中止後も数日から1週間以上にわたって効果が持続する可能性があると考えられるため留意が必要です。
まとめ
リベルサス錠については、自部署での導入前に勉強会が行われましたが、その際に「くれぐれも、ミシン目以外で切り離さないように気を付けて下さい」と病棟薬剤師から説明があったことを記憶しています。内服自己管理をしている患者さんで「空ヒート確認」をしている場合、誤って切り離しそうになりましたが、薬剤師さんに言われたことを思い出してハッとしたこともあります。内服薬に限らず、薬剤の取り扱いについては正しい知識を身につけて慎重に取り扱っていくことが大切であると感じました。
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