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お薬のはなし⑩ 経口血糖降下薬 その7~SGLT2阻害薬~

経口血糖降下薬シリーズ第7弾。今回は「SGLT2阻害薬」についてのお話です。

主なSGLT2阻害薬

機序 一般名 主な販売名 備考

インスリン分泌非促進系

イプラグリフロジン スーグラ錠
25mg/50mg
DPP-4阻害薬(シタグリプチン:ジャヌビア)との配合剤(スージャヌ配合錠)がある。
インスリン製剤との併用において、1型糖尿病患者に用いる(イプラグリフロジンとダパグリフロジンのみ)
ダパグリフロジン フォシーガ錠
5mg/10mg
インスリン製剤との併用において、1型糖尿病患者に用いる(イプラグリフロジンとダパグリフロジンのみ)
ルセオグリフロジン ルセフィ錠
2.5mg/5mg
2.5mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与
トホグリフロジン デベルザ錠20mg 20mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与
カナグリフロジン カナグル錠100mg DPP-4阻害薬(テネリグリプチン:テネリア)との配合剤(カナリア配合錠)がある。
エンパグリフロジン

ジャディアンス錠
10mg/25mg

DPP-4阻害薬(リナグリプチン:トラゼンタ)との配合剤(トラディアンス配合錠)がある

作用

結論から述べると、SGLT2阻害薬は『尿に糖を出すことで血糖値を下げる』飲み薬です。早速〝SGLT〟という聞き慣れない言葉が出てきましたね。SGLTとは、sodium glucose cotransporter(sodium glucose transporter)の略であり、「ナトリウム・グルコース共輸送担体」と呼ばれるタンパク質の一種です。その役割として、体内でグルコース(ブドウ糖)やナトリウムといった栄養分を細胞内に取り込む働きがあります。

SGLTにはSGLT1~6のサブタイプが存在することが知られていますが、主に腎臓におけるブドウ糖の再吸収に関与するのがSGLT1とSGLT2です。このうち、SGLT2は腎臓の近位尿細管という場所に存在しています。近位尿細管では体内に必要な物が取り込まれ(再吸収)、不要な物が尿として排泄されます。近位尿細管で再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT2の働きによるもので、残りの10%はSGLT1の働きによるものです。ちなみに、SGLT1は小腸にも存在し、腸管腔におけるグルコースやガラクトースの吸収を担っています。

SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのSGLT2の働きを抑えることにより、原尿(尿のもとになる液)中のブドウ糖が血液中に戻らないようにして尿中に排泄させます。この結果、血糖値が下がります。少しややこしくなってきたので、ここで一度整理してみましょう。

・体内でのグルコース(ブドウ糖)吸収に関わるものにSGLTというタンパク質の一種がある。
・SGLT2は腎臓の近位尿細管におけるグルコース再吸収の大部分(90%)を担っている。
・SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、尿糖としてブドウ糖を体外に排泄する。
⇒つまり、尿としてブドウ糖を体外に排泄することで、血糖値を低下させる薬

健康な人の場合、原尿中のグルコースは近位尿細管で100%再吸収されるため、尿糖が排泄されることはありません。一方、高血糖が持続する糖尿病患者では、健常者と比べてSGLT2の発現が増加していることが分かっており、それに伴ってグルコースの再吸収が亢進するため血糖値が高まる傾向にあります。また、SGLT2によるグルコース再吸収量には閾値(限界量)があり、その閾値を超えると尿中に糖分が排泄されます。別記事で紹介したSU薬やグリニド薬がインスリン分泌を促して血糖値を低下させることに対し、SGLT2阻害薬は「多すぎる糖分を尿と一緒に出してしまおう」という発想で開発された薬であり、他の薬剤とは異なる作用機序の経口血糖降下薬と言えます。

適応

食事療法や運動療法で高血糖が是正できない2型糖尿病に用いるとされています。なお、一部の薬剤は慢性心不全や慢性腎臓病(CKD)の治療に使われることがあります。

副作用

・尿中に排泄される糖分が増えるため、尿路感染症や性器感染症を生じる可能性があります。特に、女性の場合は膀胱炎や尿道・膣の感染症などが起こりやすい傾向があるため注意が必要です。

・尿糖排泄の亢進に伴って尿量も増加するため、脱水を起こすことがあります。脱水時の症状として、口渇感(喉の渇き)や倦怠感、血圧低下などの症状があらわれますが、高齢者の場合は口渇感を自覚しにくいこともあるため注意が必要です。添付文書には、〝体液量減少を起こしやすい患者(高齢者や利尿剤併用患者等)においては、脱水や糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、脳梗塞を含む血栓・塞栓症等の発現に注意すること〟と記載されています(スーグラ錠の添付文書:8.重要な基本的注意を参照)。服用中は適度な水分補給をこころがけましょう。

特徴・留意点

・SGLT2阻害薬の作用機序をふまると、単剤で低血糖を起こす危険性は低いですが、他の経口血糖降下薬と併用する場合は低血糖リスクが増加するため注意を要します。また、薬疹として紅斑などの皮膚症状の有無を観察する必要があります。

・投与後初期に血清クレアチニンの上昇又はeGFRの低下がみられることがあるので、腎機能を定期的に検査するとともに、腎機能障害患者における治療にあたっては経過を十分に観察すること、とされています。

・尿中のグルコース排泄促進作用により、血糖コントロールが良好であっても脂肪酸代謝が亢進し、ケトーシスがあらわれ、糖尿病性ケトアシドーシスを起こした症例が報告されています(正常血糖ケトアシドーシス)。そのため、注意点として以下のことが添付文書に記載されています。

  • (1)悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害等の症状が認められた場合には、血中又は尿中ケトン体測定を含む検査を実施すること。異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
  • (2)特に、1型糖尿病患者、インスリン分泌能の低下、インスリン製剤の減量や中止、過度な糖質摂取制限、食事摂取不良、感染症、脱水を伴う場合にはケトアシドーシスを発現しやすいので、観察を十分に行うこと。
  • (3)患者に対し、以下の点を指導すること。
    • ケトアシドーシスの症状(悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害等)。
    • ケトアシドーシスの症状が認められた場合には直ちに医療機関を受診すること。
    • 血糖値が高値でなくともケトアシドーシスが発現しうること。
  • 特に、1型糖尿病患者に対しては、上記3点に加えて、ケトアシドーシス発現リスクが高いことも説明すること。
スーグラ錠の添付文書より一部抜粋

まとめ

SGLT2阻害薬は2014年4月に発売された比較的新しい薬剤です。適応の項で述べたように、現在(2023年5月時点)では糖尿病以外の治療で用いられる場面もあります。一例を挙げると、ダパグリフロジンは2型糖尿病の有無に関わらず、左室駆出率が低下した慢性心不全や慢性腎臓病への適応が承認されています。このように、薬剤の開発と適応拡大に関しては日進月歩であり、今後も適正使用に関する情報が改訂される可能性があるため、引き続き情報をアップデートしていくことが大切であると感じました。次回は「イメグリミン」について紹介します。

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この記事を書いた人

総合病院の一般病棟で働く看護師です。
日々の自己学習や趣味の記録としてブログを活用しています。

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