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お薬のはなし③ オピオイド誘発性便秘症について

目次

はじめに

がん疼痛治療において中心的な役割を果たしているオピオイド薬。鎮痛作用が優れている反面、当然のことながら副作用もあります。今回は、オピオイド鎮痛薬の主な副作用の一つである“便秘”とその治療薬について述べていきます。(慢性便秘症のお薬については、過去記事をご参照ください)

オピオイドとは

医療用麻薬≠オピオイド
副作用の話に入る前に、まずはオピオイドに関して説明します。オピオイドについて、日本ペインクリニック学会HPでは次のように記載されています。

オピオイドとは「中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似した作用を示す物質の総称」で、植物由来の天然のオピオイド、化学的に合成・半合成されたオピオイド、体内で産生される内因性オピオイドがあります。

日本ペインクリニック学会(https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keyopioid.html

痛み刺激は、中枢神経や末梢神経に存在する“オピオイド受容体”を介して脳に伝達され「痛み」として自覚されます。作用機序に関する詳細は省きますが、オピオイド鎮痛薬はこの受容体に結合することにより、痛みの伝達を抑制し、鎮痛効果を発現すると考えられています。
「オピオイド」というと「医療用麻薬」をイメージする方が多いかもしれませんが、“麻薬=オピオイド”というわけではありません。例えば、「医療用麻薬であるが、オピオイド受容体を介した作用をしない薬剤」や「オピオイド受容体を介した作用をするが、医療用麻薬ではない薬剤」などがあります。主に以下のような薬剤があります。

「医療用麻薬であるが、オピオイド受容体を介した作用をしない薬剤」
麻薬性非オピオイド鎮痛薬・・・ケタラール(ケタミン)。NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬に分類される。

「オピオイド受容体を介した作用をするが、医療用麻薬ではない薬剤」
弱オピオイド・・・トラマドール(トラマール、ワントラム、トアラセットなどに含まれている成分)
その他・・・ノルスパンテープ(ブプレノルフィン)、ソセゴン(ペンタゾシン)

(参考・引用・・・病棟薬剤師さっぺいチャンネル:モルヒネとオキシコンドンの知っておきたい特徴【4選】https://www.youtube.com/watch?v=S7vrSf3L4QE

オピオイドの副作用

オピオイドの三大副作用としては、悪心・眠気・便秘があります。悪心や眠気は耐性がついてくるので体が次第に慣れてきますが、便秘は耐性が生じないため、オピオイド薬内服中は便秘と付き合っていく必要があります。オピオイド内服に伴う便秘のことを、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced-constipation)といいます。では、この便秘はどのようにして生じるのでしょうか?薬理学的な話で少し難しくなりますが、簡単にまとめると次のようになります。

・オピオイド薬はμ(ミュー)オピオイド受容体を介して作用を発現する
・μオピオイド受容体は、中枢(脳や脊髄)と末梢(消化管など)に存在する
・オピオイドの鎮痛効果は、主に“中枢”のμオピオイド受容体を介して発現する
・一方、便秘は消化管に存在する“末梢”のμオピオイド受容体への作用によって起こる⇒蠕動運動の抑制、腸液分泌の抑制、水分吸収の亢進により便秘が生じる

経口末梢性μオピオイド受容体拮抗薬について

上述のように、消化管のμオピオイド受容体に作用することにより便秘症が生じます。オピオイド誘発性便秘症(OIC)に対しては、経口末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(peripheral µ-opioidreceptor antagonist: PAMORA)であるスインプロイク(ナルデメジントシル酸塩錠)という薬剤が使用されることがあります。これは、末梢のμオピオイド受容体をブロック(拮抗)することによって、便秘の原因(腸蠕動の抑制、腸液分泌の抑制、水分吸収の亢進)を防ぎ、オピオイドによる便秘症状を改善する薬です。
スインプロイクは血液脳関門の透過性が低く、中枢のμオピオイド受容体には影響しづらいため、鎮痛効果には影響しないとされています。しかし、スインプロイクのインタビューフォームには次のような記載があります。

血液脳関門が機能していない又は機能不全が疑われる患者においては、本剤が中枢に移行し、オピオイド離脱症候群又はオピオイドの鎮痛作用の減弱を起こすおそれがあることから、このような患者に投与する場合は慎重に投与すること。

(スインプロイクのインタビューフォーム 「6.特定の背景を有する患者に関する注意」より引用)

なお、「血液脳関門が機能していない又は機能不全が疑われる患者」としては、脳腫瘍(転移性を含む)、エイズに伴う認知症、多発性硬化症、アルツハイマー型認知症が挙げられています。

経口末梢性μオピオイド受容体拮抗薬はOICに対する有効性が示されていますが、副作用として下痢や腹痛、悪心・嘔吐といった消化器症状が生じるリスクもあります。ナルデメジン導入後の下痢発現に関しては下記のような調査研究も行われています。

ナルデメジン導入後の下痢発現に関する予測因子─ナルデメジン導入前のオピオイド鎮痛薬の投与期間に着目した解析─:Palliat Care Res 2020; 15(2): 101-09(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/15/2/15_101/_pdf/-char/ja

この研究では、下痢発現とオピオイド鎮痛薬の投与期間との関連について報告されています。考察において、「ナルデメジン導入前のオピオイド鎮痛薬の投与期間が8日以上の場合、7日以下と比較してナルデメジン導入後の下痢発現の割合が高かった」と記載されており、OICに対してナルデメジンを導入する場合、オピオイド鎮痛薬開始から7日以内に使用することで下痢の発現を回避できる可能性が示されています。治療効果のある薬剤をより安全に使用するために、今後もこのような調査研究を継続し、臨床現場のスタッフへ周知していくことが望まれます。

まとめ

オピオイド薬については、学生の頃に薬理学の授業で勉強した覚えがありますが、年月の経過とともに知識や記憶が曖昧になっていると感じました。執筆時点で私が所属している部署においては、オピオイドをはじめ医療用麻薬を扱う機会はそれほど多くありませんが、薬剤の特徴や副作用への対応を理解しておくことは安全な医療を提供するうえで必要不可欠であるため、今後も自己学習を継続していきたいと思います。

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この記事を書いた人

総合病院の一般病棟で働く看護師です。
日々の自己学習や趣味の記録としてブログを活用しています。

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